訪問歯科で介護保険は使える?医療保険との違いや適用条件を解説

訪問歯科で介護保険は使える?医療保険との違いや適用条件を解説

2025年07月02日

超高齢社会を迎え、通院が困難な方々への歯科医療提供の重要性が高まるなか、訪問歯科診療が注目されています。自院への導入を検討している方も多いのではないでしょうか。

一方で、訪問歯科には独自の保険請求のルールがあり、スムーズに導入するためには事前にその仕組みを理解しておく必要があります。この記事では、訪問歯科診療の基本的な仕組みや、医療保険と介護保険の使い分けについて、わかりやすく解説します。

Dentis編集部

記事監修

株式会社メドレー Dentis編集部

歯科や医療に関する情報をわかりやすく発信しています。システムに関する情報だけでなく、医院経営や最新のトピックについても幅広くお届けしています。

訪問歯科とは

訪問歯科診療とは、自力で通院するのが困難な患者の自宅や施設を歯科医師や歯科衛生士が訪問し、歯科治療や口腔ケアを提供するサービスです。

まずは、基本的な定義や実施基準について見ていきましょう。

往診と訪問診療の違い

「訪問歯科」と似た言葉に「往診」がありますが、両者は明確に区別されています。

  • 往診:歯の痛みや入れ歯の損傷など、突発的なトラブルに対して緊急的に行う診療
  • 訪問診療:通院困難な患者に対して、治療計画に基づいて定期的に行う診療

両者は混同されやすく、患者から「往診をしてほしい」との打診があっても、実際には訪問診療を希望しているケースが多く見受けられます。往診は患者やその家族からの要請に応じて柔軟に実施できる一方、訪問診療を提供する場合は、診療計画の策定など、事前準備が必要です。

なお、自院で訪問診療を新たに始める場合は、専用機材の準備や届出といった手続きが求められます。詳しくは以下の記事をご参照ください。

関連記事:訪問歯科診療の始め方とは?施設基準や必要な準備について解説

訪問診療の対象者

訪問診療の対象となるのは、心身の状況などから歯科医院への通院が困難な方です。たとえば、高齢で歩くのが困難な方や、障害によって外出が難しい方が該当します。

対象となる患者のADLや介護度について、具体的な基準は設けられていません。院長が総合的に診査・診断を行い、通院による歯科治療が困難であると判断すれば、訪問診療を実施できます。

ただし、「16キロ制限」と呼ばれるエリアの制限がある点には注意が必要です。次で詳しく説明します。

訪問歯科のエリア

訪問歯科診療を提供できるエリアは、原則としてクリニックから半径16km圏内と定められています。ただし、以下のような特別な事情があれば、エリア外でも訪問歯科診療を提供できるケースがあります。

  • 患者の居住地から半径16km以内に、患者が求める診療に専門的に対応できる医療機関が存在しない
  • 患者が求める診療に対応できる医療機関があっても、往診や訪問診療は実施していない

上記に該当しない場合は、エリア外の訪問歯科診療には医療保険が適応されず、自費扱いとなることを知っておきましょう。

訪問歯科における診療報酬について

訪問歯科の診療報酬には、医療保険と介護保険の2種類が関係します。診察や治療には医療保険が適用され、介護保険の適用はありません。一方、口腔ケアなどの指導については、医療保険・介護保険ともに算定項目が存在し、基本的には介護保険を優先するのがルールです。

ここでは、訪問歯科診療の基本となる医療保険の「歯科訪問診療料」と、介護保険の「居宅療養管理指導費」について解説します。

なお、訪問歯科の診療報酬について、詳細を知りたい場合は以下の記事をご覧ください。
関連記事:訪問歯科の診療報酬における主な算定点数とは?算定する際のポイントや加算できる報酬もご紹介!

歯科訪問診療料(医療保険)

歯科訪問診療料は、訪問診療を行った際に医療保険で算定できる診療報酬で、5つの区分に分かれています。同一建物に居住する複数の患者に対して、同じ日に訪問診療を行った場合、患者数に応じて算定できる点数が変動します。

【歯科訪問診療料】 同一建物の患者一人あたり20分以上診療の場合

診療料区分

対象患者

点数

歯科訪問診療料1

同一建物に居住する者1人のみ

1,100点(診療時間の条件なし)

歯科訪問診療料2

同一建物に居住する者2人又は3人

410点

287点(診療時間20分未満)

歯科訪問診療料3

同一建物に居住する者4人以上9人以下

310点

217点(診療時間20分未満)

歯科訪問診療料4

同一建物に居住する者10人以上19人以下

160点

96点(診療時間20分未満)

歯科訪問診療料5

同一建物に居住する者20人以上

95点

57点(診療時間20分未満)

上記のとおり、算定できる点数は診療時間によって変動します。ただし「歯科訪問診療料1」については、2024年の診療報酬改定により、診療時間に関わらず同一の点数を算定できるようになりました。

居宅療養管理指導費(介護保険)

居宅療養管理指導費は、歯科医師または歯科衛生士が患者の自宅や施設を訪問し、療養上の管理や指導を行った場合に、介護保険で算定できる報酬です。医療保険と同様に、同じ建物に住む患者数によって点数(単位数)が変動します。

歯科医師が実施する場合の単位数は、以下の通りです。歯科衛生士による指導については後述します。

サービス内容略称

対象患者

単位数

歯科医師居宅療養管理指導Ⅰ

単一建物居住者が1人の場合

516

歯科医師居宅療養管理指導Ⅱ

単一建物居住者が2人以上9人以下の場合

486

歯科医師居宅療養管理指導Ⅲ

単一建物居住者が10人以上の場合

440

なお、介護保険での算定には、1回あたり20分以上の指導が必須です。また、算定単位が日ごとの医療保険とは異なり、介護保険では月単位での計算となります。つまり、その月に同一建物内の何人の患者に対して指導を行ったかによって、1回あたりの報酬が変動します。

介護保険を利用せずに指導を行う場合の算定方法

歯科における指導は原則として介護保険が優先ですが、医療保険による算定も可能です。具体的には「歯科疾患在宅管理料」や「訪問歯科衛生指導料」などが該当します。

医療保険で算定するケースとしては、以下のような例が挙げられます。

  • 介護保険証を所有していない(障害により訪問歯科が必要なケースなど)
  • 患者や家族が介護保険の利用を希望しない
  • 医師が常駐する施設(特別養護老人ホームや介護老人保健施設など)に入所している

高齢者向け施設にはさまざまな形態があり、複雑です。特に施設内で訪問歯科診療を行う際は、施設の種別に注意する必要があることを知っておきましょう。

訪問歯科診療の請求に関するよくある質問

訪問歯科診療の請求は通常の外来とは異なる点もあり、戸惑うことも少なくありません。ここでは、訪問歯科の保険請求に関して、よくある質問にお答えします。

2024年の診療報酬改定のポイントは?

2024年度の診療報酬改定では、診療の質向上や他職種との連携強化を重視した見直しが行われました。なかでも、訪問歯科診療に関しては大きな変更があり、「歯科訪問診療料」の区分や算定条件が再編され、建物内の患者数や診療時間に応じた点数体系がより明確になっています。

さらに、口腔ケアにおける多職種連携を推進する「口腔連携強化加算」や、ICTの活用体制を評価する「医療DX推進体制加算」など、新たな加算項目も創設されました。

訪問歯科は、通院が困難な患者に対して質の高いケアを継続的に提供する重要な役割を担っています。制度面の整備が進むことで、より専門的かつ効率的な支援体制の構築が期待されています。

参考:令和6年度診療報酬改定の概要【歯科】|厚生労働省保険局医療課

訪問で歯科衛生士による指導を行った場合は?

歯科衛生士が単独で訪問し、口腔ケアや指導を行った場合でも、保険請求は可能です。適用される保険制度は訪問先の種類によって異なり、居宅の場合は介護保険(歯科衛生士等による居宅療養)、それ以外の場合は医療保険(訪問歯科衛生指導料)が用いられます。

訪問歯科衛生指導料は、同一建物に居住する患者数に応じて点数が変動し、295〜362点の範囲で算定されます。ただし、月4回までの算定に限られ、歯科医師が訪問診療を行った同日には算定できない点に注意が必要です。歯科医師の訪問がない日にも歯科衛生士が継続して介入することで、より安定的で効果的な口腔ケアにつながります。

訪問診療を開始する際に必要な手続きは?

訪問診療を新たに始めるには、いくつか手続きが必要です。なかでも重要なのは、地方厚生局への「在宅療養支援歯科診療所(歯援診)」または「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」の施設基準の届出です。これらの届出を行うことで、より高い診療報酬の算定が可能になります。

詳細な手続きや準備については、以下の記事で解説しています。
関連記事:訪問歯科診療の始め方とは?施設基準や必要な準備について解説

まとめ

訪問歯科診療では、医療保険と介護保険を使い分ける必要があります。外来診療とは異なり、訪問先の種別や、同一建物内の患者数に応じた算定ルールがあるため注意が必要です。

一見複雑に感じられますが、基本を押さえれば対応は難しくありません。この記事を参考に、算定のポイントを理解し、導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。


<参考URL>
https://kure-90.com/16219149541508
https://jm-academy.jp/contents/columns/3jinn_s6x54#h0dd24fa659

Dentis編集部

記事監修

株式会社メドレー Dentis編集部

歯科や医療に関する情報をわかりやすく発信しています。システムに関する情報だけでなく、医院経営や最新のトピックについても幅広くお届けしています。

ブログ一覧に戻る