【Dentis × DenPre特別企画】あの人に聞いてみた Vol.3、医療法人社団一心会・西尾匡弘先生、影近史也先生

【Dentis × DenPre特別企画】あの人に聞いてみた Vol.3、医療法人社団一心会・西尾匡弘先生、影近史也先生

2023年02月28日

Dentisと株式会社Dental Predictionの特別企画「あの人に聞いてみた」。歯科業界に関連する注目の人をお招きし、これまでの人生や歯科に対する考え方など、ゲストのお話を伺う連載企画です。

Dentis 開発責任者・平山 宗介(以下、平山)と株式会社Dental Prediction 代表取締役・宇野澤 元春(以下、宇野澤)が、さまざまな面からゲストを深掘りしていきます。

第3回のゲストは、医療法人社団一心会・西尾匡弘先生、影近史也先生です。組織としてDXに積極的に取り組んでいるお二人にさまざまなお話を伺いました。

なお、インタビューの様子は動画視聴もできますので、気になる方はぜひご覧ください。

西尾先生について



平山 西尾先生は昔から歯科医師を志していたんですか?

西尾 いえ、そんなことはなくて。もともとは医師になりたくて、医学部を目指していたんですけど、残念ながら医学部が難しくて、歯学部に入りましたね。

平山 もともと医療家系なんですか?

西尾 いえ、父も祖父も「医者になりたかったけど挫折した」と言っていて。小さいころからそういう話を聞いていたので知らず知らずのうちに、医師を目指していたんだと思います。

宇野澤 口腔外科に進まれたというところで、歯医者さんのなかでも医師寄りですよね。

西尾 そうですね。もともと外科に興味があったので、入学のときから口腔外科の道に行きたいな、と思ってましたね。

平山 先生は北海道大学の顎顔面口腔外科科学講座から、釧路赤十字病院の歯科口腔外科に勤務されているので、割と病院よりのキャリアということですよね。

西尾 そうですね。丸々2年は口腔外科ばっかりでしたね。

平山 その後は「新札幌いった歯科」に勤務されていますが、病院からどうして歯科診療所に?

西尾 大学在学中で歯科医師免許を取る前も口腔外科に興味はあったんですけど、歯科医師ってほとんどが開業医になりますよね。そういう現状もあって、大学在学中に将来を考えたときに、口腔外科なのか、勤務医か、開業医なのか、などの選択肢を考えて「経営者的な目線も必要だな」とぼんやり考えていたんです。

口腔外科に行きながらも経営の勉強をしたいな、と思っているうちに、たまたま一心会の青木理事長に出会いまして「これからの歯科の考え方」などを話しているうちに感銘を受けました。

それで口腔外科だけではなく、フィールドを広げるために一般歯科のほうに進んだんですよね。歯科って「先が暗い」と言われながら育ってきたと思うんですが「もっと明るい歯科の未来を作りたい」と考えて、一般歯科に進みましたね。

宇野澤 僕もずっと口腔外科にいたんですよ。どっちかというと、早い段階で口腔外科をしていた人が開業医になるパターンと、ずっと大学に残るパターンってどっちもあると思うんですよね。どっちが良い悪いではなく、口腔外科を学んだことで全身的なところから見られると思っています。だから外科出身の先生がいると嬉しいですね。

平山 西尾先生は新札幌いった歯科に勤務して6年目で院長になられます。もともと青木理事長が院長だったんですよね。

西尾 理事長の青木がもともと院長をしていて、その後に院長が変わって、その次が僕、という流れですね。

宇野澤 外科の先生って切開や剥離は得意なものの、一般診療が苦手なパターンが多いと思うんですけど、西尾先生は外科卒業されてすぐ勤務されて院長になっている。この経歴から「歯医者さんとしてのテクニックがある方だ」とわかるんですよね(笑)。

口腔外科の先生って「一般診療ができなくて、なかなか院長になれない」ってのがあると思いますが、このあたりどうですか西尾先生。

西尾 僕も最初、一般歯科に入ったときはできなかったことが多かったですね。当時は青木から患者さんとの関わり方も含めて手とり足とり、熱い指導を受けた記憶はあります(笑)。

ただ基本的には手を動かすのが好きだったし、外科と一般の違いはあるとおもいますが、歯科の仕事のおもしろさは感じていました。口腔外科の先生が一般歯科に行くと、外科をまったくしなくなることもあるんですけど、幸いなことに一心会では口腔外科にも取り組めたので、キャリアを無駄にすることがなかったのも良かったですね。いろんなことにチャレンジできる環境だったのがありがたかったです。

平山 そのあとは北海道医療大学歯学部 臨床准教授や、札幌看護医療専門学校の教育課程編成医院など、割とアカデミアのほうも実践されていますが、これはどういった背景があったんですか?

西尾 そうですね。北海道医療大学歯学部 臨床准教授に関しては研修医の指導をしています。札幌看護医療専門学校の教育課程編成医院に関しても、衛生士の臨床実習に携わっていて、それなりの人数を指導していたんですよね。

それと新札幌いった歯科の近くに札幌看護医療専門学校が移転してきたんですよ。その結果としてお声がかかった、という背景がありますね。

平山 いろんな活動をしていて、すごいですよね。そんななかで2022年には「新さっぽろライフ歯科」の院長に就任されています。

西尾 新さっぽろライフ歯科がうちの法人にとっても大きなチャレンジの一つでして、総合病院の1階に入っているんですよ。いわゆる病院歯科に近いような立ち位置で診療をしていくんですよね。

新さっぽろのなかで医療特区のような形で開発が進んでいたなかで作ったんですよね。もともと口腔外科にいて全身的な関わりも意識しながら進めていける、という面で僕自身が展開したい歯科医療の拠点にするにはいいと考えていたので、僕に任せていただいた、という背景ですね。

平山 西尾先生のキャリアの集大成のような医院なんですね。

影近先生について



平山 では続いて影近先生にお話を伺います。2015年に北海道大学の歯学部を卒業されています。もともと歯学部志望だったんですか?

影近 西尾と一緒で、私も医師を志望していたんですけど、2年浪人した後に「医科は厳しいな」と思って、歯科に転向した背景があります。

宇野澤 医科で好きな科目はあったんですか?

影近 私自身が3歳から小児喘息でかかりつけの先生に見てもらっていたんですが、そんな先生になりたいな、と思っていましたね。

宇野澤 そうなんですね。ちなみに歯学部の在学中に、好きだった教科とかあったんですか?

影近 北海道大学の研修医のシステム上、どこかの科に属して専門になっていくという研修スタイルだったんです。卒業のときに「これができるけど、これができない」が嫌だったので大学を選択せずに、他の開業医の研修制度を選んで研修をしていましたね。

宇野澤 総合歯科、みたいなイメージですかね。

平山 はじめのキャリアが「日之出歯科 真駒内診療所」で研修をおこなって、その後は札幌市内の歯科医院に勤めています。こちらの歯科医院はどういうつながりで?

影近 2015年の10月に結婚しまして、妻が歯科医師としてこの医院に勤務していたんですよね。それで「どうせなら同じところで働きたいな」と。

宇野澤 そういうことなんですね(笑)。その後は一心会に入られた感じですね。西尾先生と影近先生は一緒に勤務していた時期はあるんですか?

影近 本当にわずかな期間ですが、新札幌いった歯科で一緒に仕事をしていました。最初は私は厚別ウエスト歯科で院長に就任しましたので、西尾先生と一緒に働く機会はなかったんですけど、インプラントの症例などで随時相談させていただいていました。

宇野澤 その後に西尾先生から引き継いで「新札幌いった歯科」の院長になられたわけですが、やっぱり元の院長のファンもいるじゃないですか? そこから引き継ぐのって、実際大変じゃなかったですか? 

影近 そうですね。新札幌いった歯科の院長に就任した2021年の9月には西尾先生のファンがいらっしゃるんですよ。患者さんも「あれ?」みたいな。

宇野澤 「若くなってる!」みたいな(笑)。

影近 「まぁ……(違う先生でも)いいですけど……」みたいな雰囲気を感じることはありましたね(笑)。

平山 一心会ってすごいですよね。影近先生って厚別ウエスト歯科では半年で院長になられてるんですね。

影近 そうですね。勤務し始めて半年後に、当時の厚別ウエスト歯科の院長が厚別プライム歯科の院長になることになって、当時キャリア的に2番手だった私が就任しましたね。

平山 すごいですね。かなりフットワーク軽く院長が変わるんですね。

影近 そうですね。2、3年おきに院長が交代することはあると思います。

宇野澤 やっぱり若い先生でも「任せられる」んでしょうね。一般の医院ではなかなか任せられない。院長としては不安な先生って多いと思うんですよね。だからちゃんとマニュアル化ができているのは伝わりますね。組織としてすごく上手な枠組みができていると思います。

一心会について


平山 一心会の青木理事長と私たちが話す機会がございまして、非常に統制のとれた素晴らしい医療法人だな、と思っております。そこでぜひお二人からも一心会についてお伺いできればと思っています。

影近 ではまず私のほうから。まずこちらが新さっぽろライフ歯科ですね。先ほどもお話ありましたけど、こちらの大きな病院の1階にオープンしたんですね。法人の中でもいちばん新しいのでものすごくきれいです。



宇野澤 これって同じ病院の中に入っていますが、病院歯科と連携しているんですか? 

西尾 病院とは違う法人なんですけど、同じ敷地にあります。

宇野澤 これすごく嬉しいですね。いま新しい病院の口腔外科は開業しなくなってきています。むしろ閉鎖することが結構多いんですよ。とはいえ口腔外科って大事ですよね。だから病院のなかにこうした歯科医院があるのはすごく良いことですね。新しい取り組みですよね。

西尾 はい。新しいですね。

影近 こちらが新札幌いった歯科の内部と訪問歯科チームの写真ですね。



影近 新札幌いった歯科が法人内では最も歴史ある病院ですね。ちょっとずつユニットを拡大して、現在は6台ですね。これは法人のなかでは最大です。

宇野澤 なるほど。

影近 では続いて、青木の経歴ですね。延べ患者数でいうと8万人以上です。



宇野澤 すごいですね。これは。

影近 拠点数としては歯科医院が7医院と経営本部、EzoHub Officeというところです。EzoHub Officeでも本部が機能していたり、いろいろ連携をとっています。総従業員でいうと100人を超えています。なかなか多種多様な人材を雇っていて、いろんな働き方ができるし、患者さんに対していろんな価値を提供できているのは日々診療しながら感じますね。

平山 なるほど。

影近 こちらが経歴ですね。2009年4月に新札幌いった歯科が開業しました。その後、2013年に一心会が設立されまして、同年に「厚別ウエスト歯科」をオープンしました。その後「菊水アロー歯科」をオープンしました。



影近 その後2017年に東京の中延に「中延セントラル歯科」を開業して、2019年に「白石プライム歯科」を開業しました。



影近 その後2021年の6月に東区役所前エスト歯科と環状通東ターミナル歯科を同時オープンしました。2店舗同時オープンに関しては法人としてもかなりチャレンジでしたね。その後、2022年の9月に「新さっぽろライフ歯科」を開業して、現在7医院ですね。



影近 当法人で大事にしているのが「臨床」「学術」「教育」という三本柱です。各院長がこの三本柱のいずれかを担って、新人の歯科医師やスタッフに説明をしながら業務をしています。西尾先生クラスになると、3つすべてに関わっているような形ですね。



影近 こちらが歯科のプログラムになります。当法人だと「3年研修すると、どういった治療でも対応できる」といったプログラムを組んでいます。1~3年目まで業務を振り分けている感じですね。それに伴って、模型のマネキン実習も3年分用意がありますので、それぞれ3年間で取り組むべきことが決まっています。

その他、診療外にも不明点のフィードバックや勉強会を独自に開催しています。そこで全員のベースアップを図っているという感じです。



影近 また入社1年目のドクターには青木理事長を交えて週に1回、法人の根幹となる「何を大事にしているのか」という理念を伝える時間をとっています。

右側の写真は西尾先生の何のお写真ですか?

西尾 これは韓国の延世大学のインプラントの勉強会に参加したときですね。そのときの講師の先生との一枚です。最先端のインプラント治療では何をしているのか、など海外で学ぶ機会もいただいていましたね。



影近 また「RESQOL(レスコール)ラボ」という歯科技工所を開設しました。基本的にはメタル製品を取り扱っていないんですね。保険でいうならCAD/CAM冠ですし、保険外でいえばセラミックなどを使います。ラボによってデジタルに特化した臨床体制を整えているという感じです。

患者さんの口腔内を光学スキャンすることで型取りが必要ない状態で被せ物ができるので、患者さんにとってのストレスも軽減できるんじゃないかなと思います。


一心会についての質疑応答



平山 今は体制が整っている医療法人だと思うんですけど、昔から整っていたんですか?

西尾 新札幌いった歯科の開業当時はそこまで設備が整っていなかったです。居抜き物件を借りてスタートしたんですね。開業前日まで他の医院が使っていた場所でバタバタしながら開業したんです。

当時からデジタル化している医院も多かったと思うんですけど、開業してから数年間はレントゲンもフィルムのものを使っていました。アナログで、昔ながらの歯科医院みたいな感じだったと思いますね。

宇野澤 最初はアナログな状況だったということが、僕は今の開業医などの皆さんにとって勉強になるな、と思っています。ここまでデジタルの体制を構築できたのって、やっぱり青木理事長の理念を共有できている部分が大きいのかなって思いますね。

根本的な皆さんのマインドがデジタル意識に変わっていて、そこがブレないからスモールスタートでもできているのかなって思いました。

平山 そういった意味では、昔から「ゆくゆくはグループ法人にするんだ」という強い意識はあったんですか?

西尾 そうですね。分院展開のイメージはあったと聞いています。闇雲に増やすのではなくて、適正な規模感を意識することは必要だとは青木理事長も言っていましたね。いま7つの医院ができまして、第一ステージとしてはこのくらいの規模感がいいのかな、とは思いますね。今後ステージが変わるにつれて変わっていく部分はあるとは思いますね。

宇野澤 そうですね。これだけ医師が多い一方で、受付が5人というのはかなり少ないですよね。時間としてのコスト削減を上手くやられているんだなという印象です。

あと見ていて、臨床、学術、教育は本来は大学がやるべきことなんですよね。それを法人で実践する、というのは大学の卒後研修があまり機能していないという現状に繋がります。

リカレント研修ですよね。若い人たちも卒業して臨床研修やったけど、必要なスキルってどこで学ぶの?っていうと、みんな悩んでいるんです。そこで青木理事長の教育者・研究者・臨床家としてのマインドがかなりうまく引き継がれているな、って感じましたね。

歯科DXについて



平山 あらためてDentisもDental Predictionも歯科のDXに取り組んでいます。DXとは、ただのデジタル化ではなく、これまでの業務にデジタル活用をすることで新しい歯科医療の形をつくっていくことが大事だと捉えています。

ただ歯科医院様のなかには「DXを実現したら具体的にどうメリットがあるの?」という方もいらっしゃいます。そんな方に向けて、ヒントになる一心会さんの事例をお伺いできればと思います。

デジタルツール導入のきっかけ



平山 一点目は「デジタルツール導入のきっかけ」という部分なんですけどいかがでしょう。

西尾 先ほども触れましたが、新札幌いった歯科が開業した当初って、アナログだったんですね。レントゲンも受付もアポイントも全部アナログでした。そこから一番最初にデジタル化したのが「患者さんへの説明ツール」でしたね。動画で説明を見られるものでした。

そこは理念にも紐づいていると思っていて、やっぱり「患者さんにいかに理解をしていただくか」「患者さんを大切にする」という思いが強く反映されていると思いますね。だから治療の説明を省かない、患者さんが治療内容を理解できる状況を構築する、という部分には力を入れていました。その流れで説明ツールのデジタル化を進めていきました。

宇野澤 デジタルツールでよくあるのが、院内の意識の違いですよね。例えば理事長先生がデジタル導入に前向きだけど、実際に使うのは受付のスタッフです。そこでスタッフからのクレームがどこにくるかというと院長先生にくるんですよね(笑)。そういう反発はありましたか? また、どう乗り越えたんでしょう?

西尾 導入当時はまだ規模が大きくないということで、スタッフからの反発は少なかったです。対応するメンバーも少なかったので個人ごとに説明できました。「複数の説明ツールがあるけど、これとこれは必ず使いましょう」みたいな感じですね。

導入すると、使いながら工夫をしていくんですよ。「同じ動画でもこっちのほうが患者さんに響く」みたいな発見があるんです。それで徐々に使うツールが洗練されていく感じはあったと思います。

宇野澤 影近先生はどうですかね。スタッフへの対応方法みたいなものはありますか?

影近 そうですね。私が入社してからは自動精算機の導入が大きかったんですね。当時は3、4院同時の導入だったんですけど、受付スタッフへの説明が大変でした。最初は反発もありました。

そこで「導入してよかった」と思ってもらえるような説明を意識しましたね。「それが業務をどう助けてくれるのか」「ストレスをどう減らしてくれるのか」という説明が大事だったと今は思います。

宇野澤 なるほど。医院さんって「大きくなったら、とりあえずデジタル活用する」というパターンって多いんですよね。ただ西尾先生がおっしゃった通り、小さい時代からデジタルに親しんでおくのは重要ですよね。

デジタルツール導入の推進体制



平山 デジタル導入って医院ごとなのか法人単位なのか。一心会はどうですか?

西尾 うちの場合はまず一部で導入してテストをしてモデルケースを作るようにしています。そこで運用方法や患者さんの反応を見てみて、その後に他の医院にすべて導入していく流れが多いですね。

ただ今までトライしてみてダメだからそのツールを廃止することはないので、導入前に「これはできるだろう」という感触を得るようにはしているんだろうと思います。ただ使ってみないとわからない部分はあると思うので、一気に導入することはしないようにしていますね。

宇野澤 なるほど。

西尾 それと、デジタル導入していない医院から、導入済みの医院にヘルプに来てもらうこともあります。すると「あ、これはすごく便利だな」と実際に体験してもらえるんですね。大変なことも便利なことも経験できるんです。だから浸透しやすいともいえますね。今は院長や理事長が「導入したい!」というのに対してスタッフが反対する、ということはないですね。スタッフ目線でもデジタルツールの重要さを理解できていると思います。

宇野澤 すごいですよね。人材の部分も臨床・教育・学術の3つの柱がある。人材だけだと思ったんですけど、DXに関しても「研究」しているんですね。ひと医院で研究してみて、そこで教育者を育てて、その後に教育者がそのツールを教える、という。だから材料も人材も臨床・教育・学術が一心会を支えているんですね。大きいグループってコントロールが効かなくなることもあるなかで、DXができていることには理由があるんですね。

西尾 例えば導入した機械を使う側の話なんですが、若い方はすぐ対応できるんです。医院のなかでも若い世代が先にシステムの使い方を覚えて、機能を発見する。すると、そこの医院から「このツールが良さそうです」と新しいツールを見つけることもある。そこから、また新たなツールをその医院でテストして、広げていくこともあります。

だからトップダウンで指示するというよりは、補充したものを自分で活用してくれるスタッフが増えている印象ですね。

宇野澤 素晴らしいですね。院長先生が早いスパンで入れ替わるのも、いい意味で「共有できる体制」ができているのかもしれないですよね。

デジタルツール活用による業務変化



平山 デジタルツールを活用して改善しようというよりは、自然と広がってきている印象なんですが、現時点でデジタルツールを活用することで楽になった部分はありますか?

西尾 業務変化はかなりありますね。自動精算機の導入はかなり大きかったと思います。会計エラーやお金が合わないこともかなり減りましたね。

成長するに従って、保険外の診療が増えるなど変化がありましたので、今の規模でデジタル化していなかったら、すごい量のお金を扱うことになりますからね。すると扱うスタッフもストレスもすごいし、患者さんの印象もあまりよくないですよね。そういった意味でかなり便利になったと思います。

宇野澤 なるほど。

西尾 あとはアポイントのデジタル化も大きかったですね。7院のアポイントを全部一カ所で管理しているので、どこでどんな診療をしているかがわかりやすいです。またコロナで急に欠勤した場合でも、各医院のスタッフと患者数が分かるのでヘルプの相談もしやすいですね。

平山 すごいですよね。こういったインフラを入れて業務効率化できているから教育に時間を割けると思いましたね。

西尾 受付が少ないという話もありました。以前は受付専門のスタッフがいたんですよ。それがアポイントを管理しやすくなったことで、歯科助手さんが受付も兼任できるようになりました。だから業務の分担化をしやすくなりましたね。

以前は受付専門じゃないとアポイントの管理ができなかったのが、デジタル化でアポイント状況を誰でも見やすくなったことで特質性が下がっていったという背景がありますね。

歯科DXをふまえた歯科医療のこれから

平山 今後取り組みたい歯科DXの施策はあるんですか?

影近 可能かどうかは別として、今は「アポイントはこれ、社内連絡ツールはこれ」とデジタルツールが分かれていると思うんですけど、それを一本化することで本当に効率的になると思います。

あとは受付自体を無人化して、次回予約もチェアサイドで取るようにして受付では自動精算機でお金を払うだけにしたいですね。するとより人材が効率よく働けるようになると思います。そういったことを先ほど西尾先生からお話があった通り、テストしながら、グループの各医院に広げていく。これによって法人自体がデジタルツールを取り入れていくきっかけになるんじゃないかな、と思います。

宇野澤 影近先生の個人的目標はありますか?

影近 法人が大事にしている「臨床・学術・教育」の三本柱にどう関わっていくかを大事にしています。最近だと、衛生士学校の非常勤講師をやらせていただきました。こういった教育にも力を入れられたらと思いますね。

また自分自身の歯科医療に関するスキルの向上はいつになっても努めなくていけないかなと思っています。その観点で、患者さんにより良いものを提供できるようにデジタルをどう臨床に取り入れるか、ということは、昨今考えなければいけないかなと思います。

宇野澤 西尾先生はありますか?



西尾 僕はデジタル化は業務の平坦化・平均化というところが重要だと思っています。「誰がやってもこのレベルまでは到達できる」という部分がデジタル化の大きなメリットだと思います。昨今であればインプラント治療のガイドを作ることによって、ある程度、どんなキャリアの人でも平均的な治療が提供できると思います。

専門的なスキルが必要になる治療に関しては平均化が難しいと思いますが、高いレベルが求められる治療でないものは、若いうちから経験するほうが成長スピードも伸びますし技術も高まる。患者さんにもプラスになると思います。

診療に関していうと、デジタルツールを使い、誰でも業務をこなせる状況を構築することで、ドクターが成長するスピードも高まると思いますね。

宇野澤 なるほど。

西尾 あとは医院運営的な観点としても、平均値が高くなることで早い段階で育成ができるようになりますし、使う方が多いほど人に求める能力がより明確になると思います。「この能力がほしい」という部分が具体的になることで、採用時のすれ違いが減ると思いますね。

また医療って機械に置き換えられないアナログチックな仕事が重要な部分もあると思うんですが、デジタル化で時間ができると、こうしたアナログな業務に取り組む時間に余裕ができると思います。最終的にはDXってより良い医療提供の場をつくるために必要ですし、患者さんにとってプラスになる人材育成のためにも欠かせないものだと思いますね。

宇野澤 勉強になりますね。DXって「業務改善による時間の削減」で終わってしまう医院さんがほとんどなんです。その点、一心会さんってDXによって削減した時間を、人材育成に使われている。「社会人の心得」や「歯科医師の技術」の習得に使われているんですね。

これが「DXによって、医院さんがアップグレードする」というロールモデルになっていると思います。これが今後のあたらしい歯科医院の形になるんじゃないかなと思って勉強になりましたね。

平山 医院を見ていると雑用など、本来医療者が向き合わなくていいことに時間を使っていると思うんですよね。DXによって本来医療者が向き合うべき部分に集中できている感覚がありますね。

宇野澤 影近先生もおっしゃっていた「自分の技術力の向上にフォーカスしたい」といえる先生は本当に少ないので、その「余裕」が生まれているという部分が勉強になりましたね。

まとめ



平山 DXって単にデジタル化することではなく、「組織・理念の設計」のことを指します。一心会さんは、まさに理念の部分がすごいんだなと思いましたね。だから自然とデジタル化もできるんだな、と。一心会さんみたいなモデルを他の医院に広げたら日本の医療が根底からレベルアップするんじゃないかなと思います。

宇野澤 若手の先生で「一心会さんで学びたい」という方も増えるんじゃないですかね。また開業している先生や理事長先生も「実際どうやってDXを実現しているんだ」ということで興味を示してくれる先生も増えるんじゃないかな、と思って聞いていました。

※インタビューの様子は動画視聴もできますので、気になる方はぜひご覧ください。

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