歯科医院の事業承継について、メリット・デメリット、失敗しないための注意点、承継成立までの流れを紹介

歯科医院の事業承継について、メリット・デメリット、失敗しないための注意点、承継成立までの流れを紹介

2023年01月11日

すべての開業歯科医がいつか直面するのが「事業承継」です。自身にとって最も後悔しない選択ができるように、早めに情報を得ておくことをおすすめします。

そこで今回は歯科の事業承継にあたっての情報をまとめてご紹介。 事業承継形態の種類、承継までの流れなどをご紹介します。

Dentis編集部

記事監修

株式会社メドレー Dentis編集部

歯科や医療に関する情報をわかりやすく発信しています。システムに関する情報だけでなく、医院経営や最新のトピックについても幅広くお届けしています。

事業承継とは

事業承継とは、売り手側でいうと「歯科医院経営を自分以外の誰かに引き継ぐこと」です。買い手側の目線では「自分以外の誰かが運営していた歯科医院事業を受け継ぐこと」となります。

事業承継・事業継承・事業譲渡・事業売却の違い

事業承継に似た言葉で「事業継承・事業譲渡・事業売却」があります。それぞれの意味合いは以下の表の通りです。

名前 意味
事業承継・事業継承 事業承継は歯科医院の理念やビジョンを引き継ぐこと。事業継承は歯科医院の経営権や財産を引き継ぐこと。ほぼ同義の言葉であるが、法律上や税制上では「事業承継」が用いられる。
事業譲渡・事業売却 歯科医院の事業資産の一部、あるいはすべてを譲渡すること。ほぼ同義の言葉である。


事業承継(事業継承)は、経営権の交代を指す言葉です。歯科医院について事業をはじめ土地や建物、株などのすべてを受け渡すことをいいます。
一方で事業売却(事業譲渡)は、歯科医院の「事業資産」を売却することです。事業は手放しますが、法人としての株式や出資持分などは受け渡さず、売り手側がそのまま保持します。

歯科医院の事業承継形態の種類

歯科の事業承継の形態には、以下の種類があります。

関係性 対象形態
親子・親族(生前・相続) 個人診療所(非法人)
第三者 医療法人(包括譲渡・事業譲渡)
持分あり(平成19年4月以前)
持分なし(現行)

親族への承継

歯科医院で多いのが、親が運営していた医院を子に引き継ぐケースです。身内ですので、無償で譲渡するケースが多いのが特徴です。

個人開業であれば「償却資産」を譲渡する扱いとなり「贈与税」がかかります。また親が亡くなった後に継ぐ場合は「相続税」がかかります。

親族への承継のメリット

親族への承継の主なメリットは以下の点です。

  • 親族間なので、コミュニケーションを取りやすい
  • スタッフが既知の仲であるため、関係性構築がしやすい
  • 現状の医院の長所・短所を把握しやすい
  • (同じ医院で診療する場合)データ移行の手間がない


親族間の事業承継の場合、まずコミュニケーションを取りやすいのはメリットです。連絡の頻度はもちろん「受け渡す側がどんなビジョンを持っているのか」「引き継ぐ側はどう変えていきたいのか」を双方がきちんと把握できる可能性が高いです。

また親族間の承継の場合、引き継ぐ側はすでに医院で歯科医師として働いているケースが多いです。すでに知っているスタッフと一緒に仕事をすることになりますので、関係性を構築する時間が少なくて済みます。

同じく、受け継ぐ前にスタッフとして医院の課題を体感しているのもメリットです。「どんな課題を解決すべきなのか」「そのために何をすべきなのか」がはっきりしており、経営のビジョンを立てやすいといえます。

親族への承継のデメリット

親族間の事業承継では以下のデメリットもあります。

  • 距離が近すぎるため、トラブルになることもある。
  • (非法人の場合)贈与税や相続税がかかる


コミュニケーションが取りやすいのはメリットですが、本音で話しすぎて仲違いしてしまうケースもあります。特に「どんな歯科医院をつくりたいか」というビジョンは親族といえども意見が割れやすいポイントです。売り手側が「手放すこと」を意識することが大切です。

また非法人の場合、生前に承継した場合は「贈与税」が、死後に承継した場合は「相続税」がかかり、出費になります。

親族への承継の際は承継前に法人化すべき

「贈与税」や「相続税」を回避するために、法人化してから承継をするのがおすすめです。課税なしで承継することができます。

第三者への事業承継

親族以外の第三者に承継するケースです。歯科医院の経営を通じて知り合った若手歯科医師などに、歯科医院の経営権を委ねることが多いです。また従業員である勤務医などに経営権を託すこともあります。

第三者への事業承継のメリット

第三者への事業承継のメリットは主に以下です。

  • 売り手としては幅広い承継先から選べる
  • 売り手としては自分のビジョンを受け継いでくれる承継先を選べる
  • すでに歯科医院の経営経験があるなど、経験豊富な理事・歯科医師を選べる
  • 金銭面の話など、ビジネスと割り切って会話ができる


第三者への承継の大きなメリットは「承継先の広さ」です。「自分のビジョンに共感してくれる方」や「経営の経験がある方」などから選べます。また人によっては、親族間の承継よりも会話がしやすい場合もあります。

第三者への事業承継のデメリット

一方で親族間の事業承継と比べると、以下のデメリットもあります。

  • コミュニケーションの機会が少なく、トラブルに発展する
  • 買い手が歯科医院の内部状況を把握しきれないことがある
  • 患者のカルテやレセプトのデータを移行する手間が発生する
  • 譲渡価額を口約束で決めてしまい適正額ではない値段で取引してしまう


親族間と大きく違うのは「買い手と売り手が互いの状況をキャッチアップしきれない可能性がある」という部分です。その結果、譲渡覚書や契約書などの不十分でトラブルに発展するケースがあります。事前に互いが密に情報交換をしたうえで、後悔のないように進める必要があります。

また他の医院に受け継ぐ場合が多いため、カルテやレセプトのデータを移行する必要性があります。このあたりに手間を感じるケースがあるでしょう。

建物関係には特に注意を

例えば「診療所が自宅併設」の場合、診療以外にも対価が発生する可能性があります。また定期借地・借家の場合、契約の残存期間しか引き継げないケースもあります。このあたりは売り手としては事前に整理して伝えておく必要がありますし、買い手としては知っておくべきです。

歯科医院の事業承継を進めるうえでの流れ

歯科医院の事業承継は以下の6つのポイントで進んでいきます。

  1. 売り手が歯科医院の現状を把握する
  2. 売り手が承継先を決める
  3. 買い手が設備の入れ替えなど「承継すること・しないこと」を決める
  4. 買い手が事業承継計画を立てる
  5. 売り手と買い手がデータの引き継ぎをする
  6. 売り手が買い手にアドバイスをしながら経営を安定させる


歯科医院の現状を把握する

まずは売り手側が歯科医院の現状の資産や経営状況を整理し、数値化します。

  • 月・年ごとの収入と支出
  • 導入しているシステム
  • 業務の流れ
  • 従業員数
  • 患者数
  • 医院の強みと周辺の競合
  • 目指している歯科医院像


主に上記の要素を整理しておくことで、この後の買い手選びや交渉がスムーズにいきます。

承継先を決める

親族間の承継の場合は承継先が決まっていますが、第三者に受け継ぐ場合は承継先を探す必要があります。これまでのお付き合いのなかで決められる方が多いです。ただ仲介業者やマッチングサイトなども機能しています。

事前に「承継先に何を求めているのか」を整理しておくことが重要です。「自分の目指す歯科医院像を体現してくれる方」や「金銭的に安定して経営を続けてくれる方」などの観点を設けておくことで探しやすくなります。

承継すること・しないことを決める

基本的に事業承継の場合は会社の資産がすべて受け継がれることになります。しかし買い手によっては、承継のタイミングで受け継がずに刷新したい要素もあります。

特に多いのが「システム面」です。「承継を機にオンプレミス型のシステムからクラウド型に変える」などのニーズがあります。

またスタッフのオペレーション構築も含めて、承継前からシステムを入れ替えることもあります。この際に良かれと思って、売り手側が承継前に新システムを導入することで、反対に負債を増やしてしまうケースもあります。必ず事前に買い手側との認識をすり合わせておくことが大切です。

事業承継計画を立てる

買い手としては、承継後の事業計画づくりも大切です。明確なフォーマットはありませんが、売り手に安心してもらうためにも、以下のような要素をあらかじめ論理的に決めておきます。

事業承継の概要

  • 現経営者
  • 後継者
  • 医院名
  • 承継の方法
  • 承継の時期


経営理念と中長期的な目標

  • 経営理念
  • 事業のビジョン
  • 数値目標
    • 現状の売上高と経常利益
    • ◯年後の売上高と利益
  • 数値目標を達成するための方針


データの引き継ぎをする

承継後もスムーズに事業を進められるよう、カルテ・レセプトなどのデータを移行します。両方とも5年間の保存期間がありますので、漏れがないようにしましょう。またすでに懇意にしている患者さんのデータなども引き継ぎをすることで、集患面での損失を防ぎます。

売り手がアドバイスをしながら承継後もサポートする

事業承継により、歯科医院のカラーが大きく変わることもあります。ただし残るものもあります。例えばスタッフはそのまま引き継がれます。親族間の場合は、働き方に大きな変化が生じることはないと思いますが、第三者に承継すると、場合によっては労働環境などが大きく変わり、離職につながることもあります。

また懇意にしている患者さんも変化を受けて離れてしまう可能性があります。このあたりのバランスについては、安定するまで元の経営者が適宜アドバイスをする必要があります。

ただし「いつまでもバトンを渡さない」はNG

アドバイスをすることは重要ですが、いつまでも元の経営者が口を出してしまい、経営しにくさを感じてしまう、というケースもあります。あくまで経営権は移っておりますので、元の経営者には「バトンを渡す」という潔さが求められます。

事業承継を経験した歯科医院の声

Dentisを導入していただいている歯科医院さまのなかには、事業承継を経験された歯科医院もあります。こちらでは、Dentisが実際に事業承継を経験された先生に取材してわかった、リアルな体験談をご紹介します。

親族間承継をおこなった歯科医院の体験談

買い手のAさん

最初は父親から譲り受けるということで、コミュニケーションに不安はなかったです。ただ「承継後にデジタル化をしたい」と提案したところ、最初は反対をされました。このあたりは、家族だからこそ言いやすかったのかもしれませんね。

実際、紙のカルテや予約台帳を使うよりもクラウドツールを導入したほうが、業務が楽になるのはわかっていました。ですので「まずは1カ月だけ使ってみて、それでダメなら辞める」と提案したところ受け入れてくれました。

今では父親も「紙で管理していたころには戻れない」と言っています。昔ながらの歯科医師だと、デジタル化に否定的な方もいらっしゃると思いますが、実際に使ってもらうと便利さに気づけるはずです。「まずは1カ月」という言葉は有効だと思いますね。


従業員承継をおこなった歯科医院の体験談

売り手のBさん

私が65歳になったので、そろそろ事業承継をしようと考えていました。しかし子どもはおりませんので、受け継ぐなら勤務医として働いてくれているスタッフにしようと思っていましたね。彼は治療技術は高いのですが、もちろん経営経験はありません。その点のみ気がかりでしたので、最初の1年間は私がアドバイザーとしてサポートをしていました。

従業員への継承の場合、ほとんどが「経営経験のない医師に引き継ぐ」となると思います。ですので売り手側としては、引退する前に承継をすることを伝えて、感覚をつかんでもらうまではサポートをする必要があると思いますね。


第三者への承継をおこなった歯科医院の体験談

売り手のCさん

高齢になったため事業承継を考えたんですが、息子も勤務医もいなかったために、M&Aの仲介業者さんにおまかせすることにしました。ある程度の経常利益はあったのですが、最初は買い手がなかなかつきませんでした。その理由が「属人的な運営をしていること」。つまり業務のオペレーションをマニュアル化せず、スタッフ個人が独自の知識と経験でおこなっていたんですね。「承継後に業務を任せにくい」という点で、なかなか買い手がつかなかったんです。

結局、どうにか承継することができましたが、これから第三者への承継を考えている院長先生には、デジタル機器を導入したうえで「新人でもすぐ仕事に慣れることができる職場環境」を構築することをおすすめします。


歯科医師の高齢化により歯科の事業承継は増えている

最後に、歯科の事業承継の状況についてご紹介します。歯科の事業承継は年々増えている状況です。その大きな要因が「歯科医師の高齢化」です。

歯科医師のうち「50歳以上の割合」は2014年~2020年までの6年間で4.6%増えています。また「60歳以上の割合」は8.2%増です。また「診療所を経営する開業医」の高齢化率は高く、全体のうち60%以上が50歳以上というデータがあります。

高齢化が進む歯科医院の抱える課題

そのような状況のなか、診療所には以下のような課題があります。

  • 治療技術・医療機器の進化についていけない
  • DX化が進まない


その結果、いまだに紙やオンプレミス型の機器で業務をしている歯科医院が多いのが現状です。Dentisがおこなったアンケートでは「予約管理を紙でおこなっている医院」「リコールをハガキでおこなっている」といった医院が、全体の多くを占めていました。

こうしたアナログな業務が通常になることで、小規模な診療所では「Z世代が働きにくい状況となっている」「若いスタッフが定着しない」といった問題が発生しています。

一方で大型病院は、課題を解決できる知識や人員のリソースがあります。その結果、小規模医院は大型病院への統合が進んでいる状況です。

次の世代がクリアすることで診療所を守る

こうした課題に対して、承継先の若い医師が積極的に解決していく。それが、小規模医院の経営安定化のうえで重要な要素だといえます。デジタルを活用し、DX化を促進することで、業務効率化はもちろん、患者の満足度も高まることが期待されます。

Dentisは歯科業務をトータルで支援できるクラウド型業務支援システムです。予約、問診、受付、カルテ記入、レセプト、オンライン診療、決済、メッセージ配信などの機能が1つのシステムに詰まっています。

「事業承継に合わせてシステムを刷新したい」「次世代の歯科経営を実現してスタッフが楽に仕事できる医院にしたい」などをお考えの方は、お気軽にご相談ください。以下のページから無料で資料をダウンロードすることも可能です。



また以下のページからは実際に事業承継に合わせてDentisを導入し、業務削減や集患につなげながら経営できている医院様の導入事例をご覧いただけます。こちらも、ぜひご覧くださいませ。



また以下のページではグロースリンク税理士法人 医療コンサルティング事業部のシニアマネージャーとして、長年にわたって医科・歯科領域のコンサルティングをおこなってきた野田 智成さんと、Dentis事業部長の上島が事業承継のコツについて語るセミナーをご覧いただけます。動画で知りたい方は、ぜひご覧ください。


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