歯科医院の開業で「居抜き」と「継承」はどう違う?必要な手続きやよくある質問もご紹介!
2023年10月30日
歯科医院を継承することで、歯科医院の施設や機材だけでなく、スタッフや患者を引き継ぐことができます。そのため、歯科医院の運営をスムーズに軌道に乗せることができると考えられます。
本記事では、歯科医院の開業における「居抜き開業」と「継承開業(第三者承継/M&A)」の違いや、継承に必要な手続きについて解説します。また、継承する前に決めておくべきことについても解説しますので、ぜ ひ参考にしてみてください。
記事監修
株式会社メドレー Dentis編集部
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INDEX
歯科医院の開業における「居抜き開業」と「継承開業(第三者承継/M&A)」の違い
ここでは、歯科医院の開業における「居抜き開業」と「継承開業(第三者承継/M&A)」の違いについて解説します。
居抜き開業とは?
「居抜き開業」とは、以前に歯科医院が営業していた物件をそのまま利用し、歯科医院を開業する方法です。
内装や設備があらかじめ整えられた空間を利用できることで、初期費用を抑えて開業できる点がメリットです。
この方法で気になるのは、スタッフや患者を引き継ぐことができるかという点ではないでしょうか。基本的にはスタッフや患者、さらにはカルテなどの情報を同意なく引き継ぐことはできないため、実質的には新規開業と同じ様な状態になります。
また、以前の歯科医院で働いていたスタッフを再雇用することも考えられますが、すでに他の場所での勤務を開始していることも多いため、その点でも新規開業に近い形になることが多いといえます。
つまり、居抜き開業とは、以前に歯科医院が営業していた物件で、新しく歯科医院を開業することを指します。
継承開業(第三者承継/M&A)とは?
「継承」とは、まだ歯科医院が継続している段階で、運営権などの権利を引き継ぐことを指します。
この際、歯科医院の内装や機材だけでなく、継承時の条件次第ですが、スタッフや患者情報も一緒に引き継ぐことが可能です。そのため、継承元の歯科医院の特徴を色濃く残す形で、歯科医院を運営することになります。
つまり、継承開業(第三者承継/M&A)とは、運営されている歯科医院自体を引き継いで開業することを指します。
歯科医院の継承に必要な手続き
歯科医院の開業における「居抜き開業」と「継承開業(第三者承継/M&A)」の違いについて理解できたところで、次は継承に必要な手続きを解説します。以下の2つに分けて解説します。
- 個人歯科医院の場合
- 法人歯科医院の場合
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
個人歯科医院の場合
個人歯科医院を継承する場合は、引き渡す側で現歯科医院の廃止手続きを行い、受け継ぐ側で新規開設の手続きをする必要があります。それぞれに必要な手続きは以下の通りです。
【廃止手続き】
提出先 | 提出書類 | 提出期限 |
---|---|---|
保健所 | ・診療所廃業届 ・診療用エックス線装置廃止届 |
・廃止後10日以内 ・廃止後10日以内 |
地方厚生局 | ・保険医療機関廃止届 | ・廃止後10日以内 |
税務署 | ・事業廃止届出書 ・個人事業の開廃業等届出書 ・給与支払事務所等の廃止届出書 |
・廃止後すぐに ・廃止後1ヶ月以内 ・廃止後1ヶ月以内 |
- 参考:東京都保険医療局|診療所・歯科診療所を休止、廃止された方
- 参考:東京都保険医療局|診療用エックス線装置廃止届
- 参考:診療所・歯科診療所(法人開設)の手続
- 参考:国税庁|事業廃止届出手続
- 参考:国税庁|個人事業の開業届出・廃業届出等手続
- 参考:国税庁|給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
※本記事公開日時点の情報です。最新の情報は、各公式サイトをご確認ください。
※保健所、地方厚生局への届出は各都道府県ごとに異なる可能性があるため、詳細は各都道府県ごとに確認してください。
【開業手続き】
提出先 | 提出書類 | 提出期限 |
---|---|---|
保健所 | ・診療所開設届 ・診療用エックス線装置設置届 ・麻薬施用(管理)免許者申請 |
・開設後10日以内 ・開設後10日以内 ・締切や処理期間は各地域ごとによる |
地方厚生局 | ・保険医療機関指定申請書 ・保険医療機関遡及願 |
・締切日までに提出 ・特定の期限なし |
税務署 | ・個人事業の開廃業等届出書 ・青色申告承認申請書 ・青色専従者給与に関する届出書 |
・開業後1ヶ月以内 ・開業後2ヶ月以内 ・経費精算開始の2ヶ月以内 |
継承での開設手続きについては、地域によっても取り扱いが異なる場合があるため、事前に確認をするようにしてください。そして、必要な手続きに漏れがないかチェックが必要です。
- 参考:東京都保険医療局|診療所・歯科診療所の開設等
- 参考:東京都保険医療局|診療用エックス線装置備付届
- 参考:東京都保険医療局|麻薬施用者免許申請書
- 参考:国税庁|個人事業の開業届出・廃業届出等手続
- 参考:国税庁|所得税の青色申告承認申請手続
- 参考:国税庁|青色事業専従者給与に関する届出手続
※本記事公開日時点の情報です。最新の情報は、各公式サイトをご確認ください。
医療法人の歯科医院の場合
医療法人については、理事長を交代することで歯科医院を継承します。個人の場合とは異なり、各所に変更届を出すだけで届出処理が完了するため、個人歯科医院の継承よりも手続きは簡便です。法人歯科医院で必要な手続きは以下の通りです。
【法人の継承手続き】
提出先 | 申請内容 |
---|---|
保健所 | ・医療法人役員変更届 ・医療法人の登記事項の届出 |
地方厚生局 | ・保険医療機関届出事項変更届 |
法務局 | ・医療法人役員変更登記申請書 |
こちらも必要な手続きに漏れが生じないように慎重に進めてください。
- 参考:東京都保険医療局|医療法人役員変更届
- 参考:東京都保険医療局|医療法人の登記事項の届出
- 参考:厚生労働省 関東信越厚生局|保険医療機関・保険薬局の届出事項変更の届出
- 参考:法務局|商業・法人登記の申請方法について
※本記事公開日時点の情報です。最新の情報は、各公式サイトをご確認ください。
※保健所、地方厚生局への届出は各都道府県ごとに異なる可能性があるため、詳細は各都道府県ごとに確認してください。
歯科医院を継承する際に決めておくべきこと
歯科医院の継承について必要な手続きが理解できたところで、次は継承する際に決めておくべきことを3つの状況に分けて紹介します。
- 親族からの事業継承する場合
- 第三者からの事業継承する場合
- 法人を受け継ぐ場合
事業承継においては後継者がイニシアティブを取ることの重要性、時間をかけてスタッフの信頼を得ていくことなど、重要なポイントが多数あります。
以前当社で実施したセミナーなどもご参考にいただき、理解を深めていただければと思います。
【歯科医院向け】事業承継対策講座 ~ 事業承継のポイントと事前に進める院内DX ~を確認する
それでは、それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
親族からの事業継承する場合
歯科医院を親族から継承する際、いくつかの重要な点を考慮する必要があります。
生前の継承であれば、後継者である若先生は勤務医として経営を学んだり、医院の理念や、スタッフのスキルや経験を理解する期間が必要です。そして、お互いの意見や考えを共有し、円滑な移行を実現することが大切といえます。
また、財産の売却についても注意が必要です。建物や医療機器、権利については、売却や贈与、貸付けといった方法を選ぶことになります。
特に、医療機器などの貴重な資産は、一度に売却や贈与するのが難しい場合、貸付けを選ぶことが有効となる場合も考えられます。
さらに、納税義務に関しても考慮が必要です。たとえば、売却額が継承元の方の売上としてカウントされるため、税金の負担を考慮して売却を遅らせるなどの対策が必要となります。
さらに、借入金ついても継承を進める前に金融機関との相談が必要です。保証人や担保など、継承に伴う借入金の条件変更が必要となる場合も考えられるため、事前に金融機関に相談し、計画的に進めなければなりません。
第三者からの事業継承する場合
歯科医院を第三者から継承する際には、多くの要素を慎重に考慮する必要があります。主な要素は下記のとおりです
- 譲渡対象の資産・負債
- 事業用の土地の定期借地契約
- 患者の引き継ぎ(営業権・のれん)
- スタッフの雇用契約
まず、診療方針、患者、スタッフの引き継ぎ、営業権について検討が必要です。そして、条件に応じて譲渡金額を決める必要があります。
資産や負債については、売却か賃貸かを選ぶ必要があります。特に不動産や医療機器、備品の価格設定には専門家の協力を得ることが望ましいです。これは、造成不良や設備の故障など、専門家でないと気が付かない瑕疵を漏らさず確認するためです。
事業用の土地に関しては、継承元が締結している定期借地契約に従う必要があります。
営業権に関しては、患者を引き継ぐことに双方がメリットがあると認めた場合に営業権利金が発生します。営業権利金は、年間の医業収入や個人の申告結果、患者数などを基準に、継承を受ける側がこの金額を繰延資産として減価償却していくのが一般的です。
総じて、第三者からの事業継承には多角的な検討と準備が必要です。専門家の協力を得ながら、計画的に進めてください。
医療法人を継承する場合
医療法人を継承する際にも、手続きや注意点があります。まず、新たな理事長の任命はもちろん、医療法人の持ち分(財産権)の取得が必要となります。
2007年3月以前に設立された医療法人は、経過措置型医療法人と呼ばれています。経過措置型医療法人を継承する場合、出資持分を継承することになりますが、利益が蓄積されている場合に出資持分の価格が非常に高額になる場合があります。
一方で、2007年3月以降に設立された医療法人は、基金拠出型医療法人と言われます。基金拠出型医療法人は、出資持分ではなく基金を引き継ぐ点が経過措置型医療法人と異なります。そのため、医療法人に利益が溜まっている場合も基金は不変であるため、経過措置型よりも継承の障壁が低いといえます。
歯科医院の居抜きや継承でよくある3つの質問
継承する際に決めておくべきことが理解できたところで、次は歯科医院の居抜きでよくある3つの質問を紹介します。
- 【質問1】歯科医院が居抜き物件を選ぶメリットは?
- 【質問2】居抜き物件の適正価格は?
- 【質問3】歯科医院が居抜き物件を選ぶ際の注意点は?
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
【質問1】歯科医院が居抜き物件を選ぶメリットは?
歯科医院が居抜き物件を選ぶメリットとして、以下のポイントが挙げられます。
- 開業コストの削減
一般的なテナントや新築物件に比べ、居抜き物件での開業は初期投資を削減することが可能。特に、内装や医療機器に関する初期コストが低くおさえられるため、開業時のコストの負担を軽減できる。 - 歯科医院の開業時の集患がしやすい
居抜き物件は、前の歯科医院の認知度を活用したり、かかりつけ患者が来院したりすることで、開業時から一定の患者数を期待できるため、歯科医院運営をスムーズに立ち上げることが可能。 - スタッフの採用コストが低い事業の早期安定
前の歯科医院スタッフの再雇用により、スキルがあるスタッフを比較的容易に雇用することができ、事業を早期に安定させることが期待できる。 - 開業前から収支を予測しやすい
前の歯科医院の売上や費用に関するデータを活用することで、新規開業に比べて開業後の収支予測がより正確にできる。
これらのメリットを考慮すると、歯科医院を開業する際に居抜き物件を選択することは、経済的・戦略的に有利な選択といえます。
【質問2】居抜き物件の適正価格は?
居抜き物件の売買や賃貸に際して、適正価格を正確に見積もることは非常に難しいと言われています。土地やマンションの取引とは異なり、居抜き物件の譲渡価格の市場はまだ発展途上で、具体的な価格の基準が売手の主観に大きく影響している実情があります。
特に個人的な関係での取引では、力のバランスにより、正当な価格から大きく外れた金額で取引が行われることが少なくありません。
このような状況は、適切な価値を持つ歯科医院が非常に安く売られる場合や逆に過剰な価格で購入される場合が発生し、後々のトラブルの原因となります。売買対象の適正価格を把握することは、上手に歯科医院を居抜きで引継ぐために欠かせません。
【質問3】歯科医院が居抜き物件を選ぶ際の注意点は?
居抜き物件を選ぶ際の注意点はいくつか存在します。歯科医院が居抜き物件を選ぶ際に注意すべきポイントは以下の通りです。
内装や設備の老朽化:内容や設備の状況を細かく確認し、老朽化による買い替えや修復工事などがどのくらい必要かをチェックする。特に医療機器は注意して確認する。
立地条件:通院できる範囲内に潜在患者数がどの程度いるのか、駅前や住宅地といった生活動線上にあるかが集患において重要。前歯科医院の集患数などのデータが残っていれば確認する。
前歯科医院の評判:居抜き物件は、前歯科医院の評判の影響を受けやすいため、悪い口コミや評判が多数ないかをチェックする。
これらの注意点をよく確認し、初期投資の金額や開業後の集患に問題がないかを慎重に判断するべきです。
まとめ
本記事では、歯科医院の開業における「居抜き」と「継承開業(第三者承継/M&A)」の違い や、継承に必要な手続きについて解説しました。
歯科医院を継承することで、歯科医院の施設や機器だけでなく、スタッフや患者を引き継げるため、歯科医院の運営をスタートしやすいというメリットがあります。
しかし、前歯科医院に対する不評などが一定数ある場合は、これらを払拭する努力が必要です。そのためには、他院との差別化を図り、自院の利便性の高さを患者にアピールしていくことが重要といえます。
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株式会社メドレー Dentis編集部
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