
訪問歯科の導入で気をつけること|制度や失敗しないためのポイン トを紹介
2025年06月24日

高齢化社会が進行する現代において、通院が困難な方への歯科医療を提供できる訪問歯科の重要性はますます高まっています。訪問歯科を導入すれば、社会的ニーズに応えるだけでなく、歯科医院の経営安定化も期待できます。
とはいえ、外来診療とは異なる準備や運営ノウハウが求められるため、導入に際して不安を感じる方もおられるのではないでしょうか。そこで本記事では、制度の概要、導入時の注意点やよくあるトラブルとその対処法まで、わかりやすく解説します。
記事監修
株式会社メドレー Dentis編集部
歯科や医療に関する情報をわかりやすく発信しています。システムに関する情報だけでなく、医院経営や最新のトピックについても幅広くお届けしています。
INDEX
- 訪問歯科を導入する3つのメリット
- 医院経営の安定化につながる
- 地域の患者ニーズに応えられる
- 他院との差別化を図りやすい
- 訪問歯科を始める前に把握しておきたいこと
- 制度の理解と訪問歯科の体制構築が必要
- 集患のための情報発信と関係構築が必要
- 訪問歯科の報酬の仕組み
- 医療保険を利用する場合
- 介護保険を利用する場合
- 自費診療となるケース
- 訪問歯科の実施で気をつけたい7つのポイント
- 1. 訪問前の診療準備と確認事項
- 2. 院内チームの連携体制
- 3. 患者・ご家族とのコミュニケーション
- 4. 診療スペースと環境の確認
- 5. 書類や保険証まわりの整備
- 6. 介護職・施設職員との連携
- 7. 診療後の記録・請求業務
- 訪問歯科の導入でよくあるつまずきと対策
- スタッフ間の連携ミスを防ぐための工夫
- 診療スケジュールと移動時間の管理のコツ
- レセプト処理や記録作業の効率化
- まとめ
訪問歯科を導入する3つのメリット
訪問歯科を自院に導入を検討するにあたって、まずはそのメリットを押さえましょう。おもなメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 医院経営の安定化につながる
- 地域の患者ニーズに応えられる
- 他院との差別化を図りやすい
それぞれ詳しく解説します。
医院経営の安定化につながる
訪問歯科は通院が困難な患者層にアプローチができるため、患者数の増加が期待できます。外来診療と組み合わせることで、医院経営を安定化できる可能性が高まります。。訪問診療は計画に沿って定期的に行うため、比較的キャンセルが少ないのもメリットです。
さらに、訪問先で丁寧に対応すれば患者家族との信頼関係を構築でき、ご家族や知人など、新たな外来患者の獲得に繋がる可能性もあります。結果として、地域におけるクリニックの存在価値を高めることができます。
地域の患者ニーズに応えられる
高齢化が進む日本では、身体的な理由などから通院が困難な高齢者が少なくありません。こうした方々にも、訪問歯科を導入することで、適切な治療や口腔ケアの提供が可能です。
また、訪問歯科では、ケアマネジャーや施設職員など他職種と連携しながら、患者さんを多角的にサポートするチーム医療が求められます。こうした連携の中で専門性を発揮し、患者さんのQOL(生活の質)向上に貢献できることは、歯科医師として大きなやりがいとなるでしょう。
他院との差別化を図りやすい
訪問歯科は、多くの歯科医院で未だ導入が進んでいない分野であり、他院との差別化を図るうえで有効な手段です。
例えば、東京都保健局の「令和4年度かかりつけ歯科医機能推進等に関する調査報告書」によると、都内にある歯科診療所のうち、訪問診療を実施している医院は33%と、過半数を下回る状況です。また、新規で訪問歯科を導入したいと考えているクリニックも全体の21.5%に留まりました。
訪問歯科へ積極的に取り組むことで地域での独自性を確立し、自院の強みとしてアピールできるでしょう。
訪問歯科を始める前に把握しておきたいこと

訪問歯科を円滑に開始し、継続して提供していくためには、入念な事前準備が必要になることを知っておきましょう。外来診療とは異なり、介護保険請求など関連制度の理解や地域との連携も重要になります。
ここでは、訪問歯科を導入する際に把握しておきたい基本的な事柄や、訪問歯科診療を軌道に乗せるために必要な対策について解説します。
制度の理解と訪問歯科の体制構築が必要
訪問歯科を開始するにあたり、まずは関連する医療保険制度や介護保険制度の理解が大切です。診療報酬には、施設基準の届出が必要なものや複数の加算項目があり、算定ルールは複雑となります。。介護保険で請求できる算定項目を含め、取りこぼしがないように正確に把握しておきましょう。
また、訪問先で使用するポータブルユニットをはじめとする物品の準備だけでなく、実際に診療を行うためのスタッフの教育も重要です。このように多くの準備が必要になるため、計画的に取り組みましょう。
集患のための情報発信と関係構築が必要
訪問歯科のニーズは高いものの、「待っているだけ」では患者は集まらないのが現実です。自院が訪問歯科を行っていることを地域に広く周知するために、ホームページや院内掲示、地域住民向けのチラシ配布などを積極的に行うようにしましょう。
さらに重要なのが、地域のケアマネジャーや地域包括支援センター、近隣の医療機関との連携です。日頃から他業種とも積極的に情報交換を行い、勉強会を開催するなどして信頼関係を構築しましょう。
訪問歯科の報酬の仕組み
訪問歯科診療の報酬は、外来診療とは異なる部分が多く、医療保険と介護保険の両方が関わってきます。
ここでは、訪問歯科における報酬の基本的な枠組みと、それぞれの保険を利用する場合のポイント、そして自費診療となるケースについて解説します。
医療保険を利用する場合
訪問歯科で提供する診療のうち、治療については医療保険の適用となります。基本となるのは「歯科訪問診療料」で、外来の初診料や再診料に比べ診療報酬が高く設定されています。ただし、算定するためには施設基準を満たし、届出を行う必要があります。
適切な診療報酬を得るために、訪問歯科を実施する月の前月までに地方厚生局で手続きしましょう。届出を行うことで「在宅歯科医療推進加算」や「歯科訪問診療補助加算」などの加算も算定可能になります。
介護保険を利用する場合
歯科医師や歯科衛生士が療養上の管理や指導を行った際、要介護認定を受けている患者であれば、介護保険を利用して「居宅療養管理指導」を算定します。基本的には、医療保険を取り扱う歯科医院であれば、介護保険で請求を行うにあたって特別な届出は必要ありません。
ただし、訪問先が病院や介護保険施設の場合は介護保険を算定できず、医療保険(在宅療養管理指導料)を算定します。訪問歯科で療養上の管理・指導を行った場合は、訪問先や介護保険の有無により、報酬の請求先が異なる点に注意しましょう。
自費診療となるケース
訪問歯科診療は原則として「16キロ制限」と呼ばれる、医療機関から半径16km以内の範囲が保険適用の対象となります。範囲を超える場合には、医療保険を適用できず、自費診療となる場合があるため注意が必要です。外来治療同様に保険適用外の特殊な材料・治療法を希望される場合も、自費診療となります。
自費診療を行う際は、トラブルを予防するためにも事前に患者や家族に治療内容、費用、保険適用外である理由などを丁寧に説明し、同意書を取得することが重要です。
訪問歯科の実施で気をつけたい7つのポイント
訪問歯科には、外来診療とは異なる点が多く存在します。
ここでは、訪問歯科を実施する際に気をつけたい7つのポイントについて解説します。
1. 訪問前の診療準備と確認事項
訪問歯科では、外来診療とは異なり、訪問歯科を利用する患者自身とのコミュニケーションが難しい場合もあります。家族やケアマネジャーなど、周囲の方からも患者全身状態、既往歴、服薬状況、アレルギーの有無、感染症リスクなどの医療情報を確認しましょう。
また、スムーズに訪問歯科診療を実施できるよう、訪問先の住所や連絡先、駐車スペースの有無についても確認が必要です。念のため、出発前に患者の体調を確認するのも良いでしょう。
2. 院内チームの連携体制
訪問歯科診療は、院内チームの緊密な連携体制の構築が不可欠です。歯科医師、歯科衛生士、そして場合によってはコーディネーターやアシスタントなど、複数人が連携して行うためです。訪問前には必ずミーティングを行い、患者情報、診療内容、各自の役割分担を再確認しましょう。
診療後には、実施内容や患者さんの状態変化、次回の対応方針などをスタッフ間で共有することが大切です。情報共有ツールの活用や、定期的な報告を通じて、チーム全体で質の高い医療提供を目指しましょう。
3. 患者・ご家族とのコミュニケーション
初回訪問では、患者やご家族は適切な診療が受けられるか不安を抱えているものです。患者が重度の疾患を有している場合もあり、丁寧な声かけや傾聴など、安心して診療を受けられるような配慮が極めて重要です。
治療内容や手順、痛みなどについて事前に分かりやすく説明し、インフォームドコンセントを徹底しましょう。また、ご家族に対しても、患者さんの口腔状況、実施した治療、今後の治療計画、日常の口腔ケア方法などを具体的に伝えることが大切です。
4. 診療スペースと環境の確認
訪問先の診療環境は、歯科医院とは大きく異なります。限られたスペースで安全かつ効率的に診療を行うためには、事前の準備が欠かせません。ポータブルユニットや器材の配置、患者さんが楽に診療を受けられる体位の確保、十分な照明の確保など、現場を想定したシミュレーションを行っておきましょう。
加えて、患者さんの生活空間にお邪魔するという意識も大切です。診療中も環境への気配りを忘れず、使用器材の扱いや整理整頓にも細やかな配慮を心がけましょう。
5. 書類や保険証まわりの整備
訪問歯科診療では、外来診療と同様に、あるいはそれ以上に書類の管理が重要になります。診療録に加え、ケアマネジャーや他医師への情報提供書、各種同意書なども、正確かつ丁寧に作成・管理することが求められます。
さらに、患者さんの保険証の種類(医療保険・介護保険)や負担割合証の内容、有効期限をしっかり確認しましょう。公費負担医療の受給者証が交付されている場合は、内容や対象範囲も把握しておく必要があります。
6. 介護職・施設職員との連携
訪問歯科では、ケアマネジャーや施設職員、病院スタッフなどとの連携が欠かせません。訪問診療を受ける患者さんの多くは、介護サービスや他の医療機関も利用しており、複数の支援が並行して行われていることが多いためです。
こうしたなかで、診療結果や治療方針、日常の口腔ケア方法を共有することは、患者さんの生活の質(QOL)を高めるうえで大きな意味を持ちます。定期的なカンファレンスへの参加や連絡ノートを通じた情報交換など、密なコミュニケーションを通じて顔の見える関係を築くことが大切です。
7. 診療後の記録・請求業務
訪問歯科の報酬請求は、医療保険と介護保険の両方にまたがるため、制度が複雑です。さらに、報酬の算定には「診療時間の記録」や「書類の作成」など、細かな条件が多く設定されており、記録や書類に不備があると減算や返戻の対象になる恐れもあります。
たとえば、訪問診療の実施時間をカルテに記載していない場合、歯科訪問診療料が減算される可能性があるでしょう。こうしたリスクを減らすためにも、訪問歯科に対応した電子カルテやレセコン、請求ソフトなどの導入を検討し、記録の簡略化と請求ミスの防止を図ることが重要です。
訪問歯科の導入でよくあるつまずきと対策

訪問歯科を導入すれば多くのメリットがある一方で、実際に始めてみると様々な課題や困難に直面することも少なくありません。ここでは、訪問歯科の実施時によくあるトラブルと、具体的な対策について解説します。
なお、訪問歯科の具体的な始め方については以下の記事をご覧ください。
関連記事:訪問歯科における診療の流れは6ステップ|概要や対象者、手続きについても徹底解説!
スタッフ間の連携ミスを防ぐための工夫
訪問歯科では、歯科医師、歯科衛生士、コーディネーターなど複数のスタッフが関わるため、情報共有の不足や役割分担の曖昧さがミスを引き起こすことがあります。例えば、患者さんの最新情報が伝わっていなかったり、誰がどの機材を準備するのか不明確だったりするケースです。
情報共有のミスは、医療ミスや患者からの信用失墜につながりかねません。ミーティングや、クラウド型のスケジュール管理ツールなどを活用し、情報共有を徹底しましょう。
診療スケジュールと移動時間の管理のコツ
訪問歯科では、複数の患者さん宅や施設を効率的に巡回するためのスケジュール管理が重要です。移動時間を考慮せずにアポイントを詰め込みすぎると、遅刻や診療時間の短縮、スタッフの疲弊に繋がります。
対策としては、訪問エリアを曜日や午前・午後でまとめる、地図アプリや訪問歯科専用のシステムを活用して最適なルートを計画するなどが挙げられます。無理のない診療スケジュールを策定することで、十分な診療時間を確保できるでしょう。
レセプト処理や記録作業の効率化
訪問歯科のレセプト請求は、外来と比べて算定ルールが複雑で、加算項目も多岐にわたります。また、診療後の記録作成がスタッフの負担となることも少なくありません。
これらの課題を解決するためには、たとえば「Dentis」のような、訪問歯科に対応したレセコンの導入が有効です。訪問先でのカルテ入力機能や、提供文書の作成機能などを活用することで、業務負担を大幅に軽減し、正確かつ効率的な請求処理を実現できるでしょう。
まとめ
訪問歯科は、地域医療への貢献と医院経営の安定化を同時に実現できる取り組みです。通院困難な患者への対応や多職種との連携を通じて、歯科医療の幅を広げることができる一方、外来とは異なるノウハウが求められます。
本記事を参考に、しっかりと計画を立てることで、無理なく、そして持続可能な訪問歯科体制を構築できるでしょう。具体的な訪問歯科の始め方は、次の記事で紹介しています。
関連記事:https://dentis-cloud.com/blog/howtostart-home-hentistry
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<参考URL>
https://jm-academy.jp/contents/columns/3jinn_s6x54#h0dd24fa659
https://jm-academy.jp/contents/columns/3jinn_s6x54
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r4kakari1
https://shirobon.net/medicalfee/latest/shika/r06_shika/r06s_ch2/r06s2_pa2/r06s22_C000.html
https://tryt-worker.jp/column/kaigo/detail/ka442/
https://www.houmonshika.org/dental/
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251542.pdf
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